2017年度

日時:8月31(木)16:25~17:55 @ 物質生産棟 751
講師:佐藤 憲昭 教授(名古屋大学大学院 理学研究科)
題目:結晶と準結晶の多様性と普遍性

これまでの物性物理学は、周期性を持つ通常の結晶(現代的な定義に基 づけば「狭義の結晶」)を暗黙の裡に仮定し、電気伝導、磁性、あるいは超伝導などを議論してきた。例えば、Bloch の定理により、完全金属結 晶の電気抵抗がゼロとなることを我々は知っている。一方、周期性を持 たないアモルファス(乱れた系)に対しても理解が進み、その波動関数 が Bloch 状態とは対照的に(実空間において)局在していることもよく 知られている。これらに対し、30 年ほど前に発見された「準結晶」の物 性については、殆ど何も解明されていない。例えば、(通常の)結晶も アモルファスも超伝導になる物質は数限りなく存在するのに、超伝導を 示す準結晶はこれまで一つも発見されていない。また、磁石のような長 距離磁気秩序を示す準結晶も未だ発見されていない。これが準結晶の特 性・本質なのかという基本問題に対して、我々は未だ答を得ていない。 近年、我々は、Yb 原子を含む準結晶において(重い電子系でしばしば見 出される)量子臨界現象を見出すとともに、超伝導を示す準結晶も発見 した。本コロキウムでは、これらの実験結果の紹介と、その背後に潜む 物理(通常の結晶と比べたときの多様性と普遍性)について議論すると ともに、「準結晶と重い電子系(強相関電子系)の境界領域」に未開拓 のフロンティアが拡がっていることを示したい。



日時:8月23日(水)10:00~11:00 @ 物質生産棟 751
講師:Matthias Raba (PhD student LNCMI-Grenoble)
題目:Electronic and magnetic properties of CePt2In7

CePt2In7 is a recently discovered heavy fermion material belonging to the same family as the well-studied isotropic CeIn3 and quasi-two-dimensional CeRhIn5 compounds. The spacing between Ce-In planes in CePt2In7 is drastically increased [1] as compared to CeRhIn5, implying a more two-dimensional crystal structure.
 Along with the other compounds of its family, CePt2In7 temperature-pressure phase diagram exhibits an antiferromagnetic phase below 5.5 K at ambient pressure. The Neel temperature is suppressed by increasing pressure. A superconducting dome emerges around a quantum critical point at Pc = 3.2 GPa [2] associated with this magnetic phase, whose magnetic structure was unknown until very recently.
 First of all, I will briefly introduce quantum oscillation phenomenon and the tunnel-diode-oscillator (TDO) technique. I will then present some recent preliminary results of quantum oscillation measurements using a tunnel-diode-oscillator circuit and high pressure cells. Finally, I will show the results of a single-crystal neutron diffraction experiment on CePt2In7, which allowed us to determine its antiferromagnetic structure [3].

[1] T. Klimczuk et al., J. Phys.: Condens. Matter 26, 402201 (2014).
[2] V. A. Sidorov et al., Phys. Rev. B 88, 020503(R) (2013).
[3] M. Raba et al., Phys. Rev. B 95, 161102(R) (2017).



日時:7月5日(水)15:00~16:00 @ 物質生産棟 751
講師:甲賀 研一郎 教授(岡山大学 異分野基礎科学研究所)
題目:モデル高分子のコイル-グロビュール転移を駆動する水の役割

水溶液における疎水効果は様々な興味深い物理化学現象を引き起こす. 例えば,水と疎水基をもつ分子種からなる2成分溶液は,2相に分離している状態から温度を下げると均一な1相になる下部臨界現象を示すことがある.また,疎水基または疎水性骨格を有する水溶性高分子やゲルは温度を上昇させると収縮することが知られている.タンパク質の安定性や会合体の形成においても疎水性相互作用が重要な役割をはたすことが認められている.このセミナーでは,まず単純な溶質分子の疎水効果・疎水性相互作用について,最近何が明らかになり,何が未解明なのか,そして溶媒が水であることの必要性はどこにあるのか,について考える.次に,モデル疎水性高分子のコイル-グロビュール転移のシミュレーションから,温度応答性高分子のコンフォーメーション変化における水の役割について考察する.


日時:6月14日(火)12:55~14:25 @ 自然科学研究科大会議室
講師:久保 勝規(日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター)
題目:f電子系の多極子秩序

希土類化合物では、希土類イオンのf軌道を占めている電子(f電子)が磁性を担うことが多い。f電子は軌道自由度が大きく、双極子モーメントだけではその自由度を記述できないこともある。このような場合、f電子の自由度は、四極子や八極子といった多極子と呼ばれるもので記述されることが多い。本講演では、多極子を用いる利点を説明し、それぞれの多極子の特性を説明したのち、我々の理論研究を中心にCexLa1-xB6[1]やNpO2[2]における多極子秩序の実例を紹介する。また、結晶場基底状態がΓ3である系の多極子相互作用について、最近我々が行った研究[3]を紹介し、これまで主な研究対象であったΓ8系[4]との比較も行う。

[1] KK and Y. Kuramoto, JPSJ 72, 1859 (2003); 73, 216 (2004).
[2] KK and T. Hotta, PRB 71, 140404(R) (2005).
[3] KK and T. Hotta, PRB 95, 054425 (2017).
[4] KK and T. Hotta, PRB 72, 144401 (2005).

2016年度

日時:11月1日(火)16:30~17:30 @ 物質生産棟751号室
講師:柳瀬 陽一(京都大学理学研究科准教授)
題目:パリティが欠如した結晶におけるトポロジカル超伝導

近年の物性物理学ではトポロジカルに非自明な絶縁体や超伝導の研究が爆発的に進められている。これまで量子凝縮相はその対称性に基づいて分類されてきたが、相補的な分類学としてトポロジーの研究が発展したと見ることも出来る。
 トポロジカル超伝導体ではマヨラナ粒子が出現し、その非局所性から量子計算の素子としても注目されている。しかし、トポロジカル超伝導体の候補とされるスピン三重項超伝導やカイラル超伝導を実現する物質が非常に少ないことが問題となっている。弱相関電子系のS波超伝導はトポロジカルに自明であり、強相関電子系の異方的超伝導は多くの場合ギャップがなくトポロジカル超伝導であるための条件を満たさない。
 本研究では、強相関電子系に数多く見られるd波超伝導体などのギャップレス超伝導体を「強いトポロジカル超伝導体」に変えることが出来る一般的な方法を提案する。その条件は、スピン一重項超伝導であること、パリティが欠如していること、スピン偏極していること、の3つである。これらの条件が近年大きな実験的発展を遂げた2次元超伝導体で既に実現していることも紹介したい。
日時:7月26日(火) 16:25〜17:55 @物質生産棟 751
講師:水牧 仁一朗 ( 高輝度光科学研究センター 副主幹研究員 )
題目:X線分光を用いた物性研究~価数不安定性が誘起する特異な電子物性~

X線分光法は、元素選択性と軌道選択性という特長をもっており、化合物中のある元素のある軌道についてのみの価数や局所構造といった情報を抽出することができる。この特長を生かしたX線分光法による固体の電子状態研究が物性研究において重要な役割を果たしつつある。特に4f希土類元素や3d遷移金属元素で構成されている強相関電子系化合物に適用され、希土類または遷移金属元素の価数決定に非常に強力な手段となっている。また、超高圧・強磁場・極低温という多重極限下でのX線分光測定も可能となってきている。
 このような状況をうけて、最近、強相関4f電子系の価数(電子数)を様々な圧力-磁場-温度点において決定し、物性の相図と比較することにより、価数(電荷)自由度とマクロな物性(例えば、重い電子的な振舞、価数揺らぎ量子臨界現象など)との相関を明らかにする試みがなされている。
 本コロキウムでは、スピン自由度以外のエントロピーが起源と考えられる磁場に鈍感な重い電子的振舞を示す系SmOs4Sb12[1,2]、価数自由度と他の内部自由度との相関が示唆される価数1次転移物質YbInCu4[3]、非従来の量子臨界現象との相関が示唆されるYbNi3Ga9[4]について議論する予定である。

参考文献
[1] M. Mizumaki, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 76 (2007) 053706.
[2] S. Tsutsui, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 023707.
[3] S. Tsutsui, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 85 (2016) 063602.
[4] K. Matsubayashi, et al., Phys. Rev. Lett. 114 (2015) 086401.
日時:7月12日(金) 16:25〜17:55 @物質生産棟 751
講師:松村 武 氏(広島大学大学院先端物質科学研究科・准教授)
題目:SmRu4P12における磁場誘起電荷秩序

SmRu4P12はTN=16.5 Kで金属絶縁体転移を起こすと同時に磁気的な秩序状態に転移する[1]。しかし,その秩序相内に別の転移(T∗≈14 K)が存在し,磁場印加と共にT∗での比熱等の異常が増強されていく現象がみられ,長年の謎であった[2]。これに関して,最近,p-f混成を起源とするCDW不安定性に基づいた解釈が提案され,興味を集めている[3]。この理論を受け,我々がSPring-8のBL22XUで共鳴X線回折実験を行ったところ,理論とよく整合する実験結果が得られた。
(1) T∗< T < TNの中間相で原子変位による非共鳴Thomson散乱が磁場で誘起されること
(2) 磁場と平行な反強磁性成分が中間相で増大していること
(3) T < TNでRhombohedralになっていること,が主な結果である.
これらを,磁場誘起電荷秩序(CDW,16極子秩序, Γ7とΓ8の結晶場交替型秩序)の観点から考察し,議論する。また,超高分解能格子定数測定などの先端的手法についても触れたい。

参考文献
[1] C.-H. Lee et al., JPSJ 81, 063702 (2012).
[2] K. Matsuhira et al., JPSJ 71, Suppl. 237 (2002).
[3] R. Shiina, JPSJ 82, 083713 (2013).
[4] T. Masumura et al., PRB 89, 161116 (2014).
日時:7月1日(金) 16:30〜 @物質生産棟 751
講師:金子 竜也 (理化学研究所 基礎科学特別研究員)
題目:励起子相の理論と候補物質Ta2NiSe5

励起子相、時に励起子絶縁体と呼ばれるものは、バンドの重なりの小さい半金属やギャップの小さい半導体において励起子(電子-ホール対)の凝縮状態として基底状態が記述される相のことである[1]。励起子相の理論は古くから存在するが、近年になり遷移金属化合物においていくつかの候補物質が報告され、候補物質において超伝導が発現するなど、その物性が再評価されている。
 我々は、遷移金属化合物などの局在性の強い系に有効な、強束縛近似にもとづく模型における励起子相を理論的に研究してきた。そこで本発表では最初に、我々の研究も交えた励起子相の基礎的な理論から解説する。次に、励起子絶縁体の候補物質として注目されている層状カルコゲナイドTa2NiSe5について、我々が進めてきた理論研究の結果も含めて発表をする。Ta2NiSe5は角度分解光電子分光の実験などから励起子絶縁体の可能性が示唆されているが[2]、我々は有効模型として電子-格子相互作用を考慮した三本鎖Hubbard模型を構成し、Ta2NiSe5の低温秩序相について議論した。その結果、Ta2NiSe5においてはバンド間クーロン相互作用と電子-格子相互作用が協力し合い、励起子相への転移が構造相転移を誘発することを示唆した[3]。また、構築した理論模型において様々な物理量の温度依存性も評価し[4]、理論と実験の整合性についても議論する。

参考文献
[1] B. I. Halperin and T. M. Rice, Solid State Physics 21, 115-192 (1968).
[2] Y. Wakisaka et al., Phys. Rev. Lett. 103, 026402 (2009).
[3] T. Kaneko, T. Toriyama, T. Konishi, and Y. Ohta, Phys. Rev. B. 87, 035121 (2013).
[4] K. Sugimoto, T. Kaneko, and Y. Ohta, Phys. Rev. B. 93, 041105 (R) (2016).
日時:5月17日(火) 14:40〜 @環境エネルギー棟202
講師:Dr. Ilya Sheikin (Laboratoire National des Champs Magnetiques Intenses,Grenoble, CNRS, France)
題目:Magnetic and electronic properties of CePt2In7 in high magnetic fields

Antiferromagnetic heavy fermion CePt2In7 has recently come to prominence due to the observation of a pressure-induced quantum critical point and associated with its superconductivity. However, most of the so far reported results were obtained on either polycrystals or single crystals contaminated with other phases.
 In my talk, I will present the results of zero-field neutron diffraction, as well as high field specific heat and de Haas-van Alphen (dHvA) investigation of high quality phase pure single crystals of CePt2In7. Our preliminary neutron diffraction measurements reveal a simple antiferromagnetic structure with a propagation vector (1/2, 1/2, 1/2) that develops below the Neel temperature of 5.5 K. The magnetic phase diagram based on specific heat measurements suggests that a field-induced quantum critical point is likely to occur slightly below 60 T for both principal orientations of the magnetic field. The observed angular dependence of the dHvA frequencies indicates that some of the Fermi surfaces are almost ideally two-dimensional. The comparison of the experimental results with band structure calculations suggests localized 4f electrons deep inside the antiferromagnetic phase. Surprisingly, the Fermi surfaces do not seem to change across the field-induced quantum critical point. Throughout my talk, I will discuss similarities and differences between CePt2In7 and the well-studied less two-dimension compound from the same family, CeRhIn5.
2015年度

日時:1月14日(木) 14:30〜15:30 @物質生産棟751
講師:竹内 徹也 氏(大阪大学 低温センター)
題目:重い電子系に観られる熱膨張異常の統一的理解に向けて- 近藤効果と価数

重い電子系物質では、近藤温度とよばれる特性温度より低温で、比較的局在 性の良い f 電子が伝導電子と混成することで遍歴性を獲得し重い電子状態が発 達する。熱膨張や磁歪といった弾性的性質はこのような電子状態の変化を顕著 に反映する。これまでの研究から、重い電子状態の発達と熱膨張異常には密接 かつ元素によって特徴的な関係がありそうなことが分かってきた。さらにその 熱膨張の異常が、希土類イオンの価数変化とも相関していることを示唆する実 験結果も最近得られつつある。
日時:1月14日(木) 13:30〜14:30 @物質生産棟751
講師:金子 耕士 氏(日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門)
題目:量子ビームで探る格子自由度がもたらす新奇物性

中性子・X 線は、元素に対する感度、エネルギー、波数依存性などに異なる 特性をを有している。一般に磁性研究には中性子が優れているが、共鳴散乱等 を利用することで X 線固有の情報を引き出すことが可能となる。フォノン分 光においては、これまで中性子非弾性散乱が主流であったが、放射光を用いた 著しい技術発展により、X 線が凌駕する面も存在する。本発表では、実際に X 線及び中性子散乱各々の特性を活かした相補利用の研究例として、格子自由度 が引き起こす新奇な物性を対象にした結果を紹介する。
日時:10月22日(木) 16:25〜17:55 @物質生産棟161
講師:仙場 浩一 氏(国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT) 上席研究員)
題目:巨視的量子ハイブリッド系

量子力学誕生~20世紀前半頃は,光子や電子等の微視的対象が有する不思議な 性質と考えられてきた「状態の重ね合わせ」原理だが,レーザーや半導体産業に 代表される20世紀後半の技術革新に伴い急速に発達した素子作製技術や精密測定 技術の進歩のお蔭で,光子や電子だけでなく,原子や複雑な分子,スピンの集 団,さらには,超伝導電気回路を巡るマイクロアンペア程度の電流にさえも適用 可能なことが徐々に明らかになってきた。
 物質と光の相互作用を量子1個レベルで操る量子電磁力学は,原子物理学の分 野で始まったが,今世紀に入ると,半導体微細加工技術を援用して作られる種々 の人工原子を使う設計可能な量子的電気回路を用いた量子電磁力学へと急速に発 展した。
 講演では,巨視的量子系の一つである超伝導量子ビットの物理や巨視的世界で の量子性発見の諸研究にも言及しながら,超伝導磁束量子ビットと強結合したダ イヤモンドのNV色中心電子スピン集団の量子ハイブリッド系についてご紹介する。

[1] 超伝導量子ビットとダイヤモンド中の電子スピン集団の強結合-ハイブリッ ド量子系;仙場 浩一,  齊藤 志郎,  角柳 孝輔   固体物理48, 599(2013).
[2] 巨視的量子世界からみた「光子の裁判」;仙場浩一 数理科学407,39(2014).
[3] X. Zhu, et al.,  Nature 478 , 221– 224 (2011).
[4] K. Semba, et al., Lecture Notes in Physics 911, (Springer-Verlag, 2016), chapter 24.
日時:11月26日(木) 16:30〜18:00 @理学部A314
講師:引原 俊哉 氏(群馬大学)
題目:ジグザグ梯子量子スピン系における新奇量子状態

最近接相互作用と次近接相互作用がフラストレートした一次元量子スピン系における新奇量子状態について議論する。特に磁場印加により出現するカイラル秩序状態、スピン多極子(準長距離)秩序状態に着目し、それらの量子相の性質・出現条件に関する研究結果について述べる。実際の物質で存在する弱い三次元的相互作用による秩序化や、実験による観測可能性についての結果も紹介する。

[1] T. Hikihara et al., Phys. Rev. B 78, 144404 (2008);
[2] J. Sudan et al., Phys. Rev. B 80, 140402(R) (2009).
[3] T. Hikihara et al., Phys. Rev. B 81, 224433 (2010).
[4] M. Sato et al., Phys. Rev. B 79, 060406(R) (2009);
[5] M. Sato et al., Phys. Rev. B 83, 064405 (2011).
[6] M. Sato et al., Phys. Rev. Lett. 110, 077206 (2013).
日時:6月19日(月) 14:40〜16:10 @物質生産棟751
講師:芳賀 芳範 氏(日本原子力研究開発機構)
題目:アクチノイド科学:5f電子系の特異な物性

アクチノイド元素は、原子力科学技術の中で中心的な役割を担っている。ここでは、ウランやプルトニウムといった原子番号90を超える重い原子核の不安定性に起因する核分裂エネルギーが利用されている。同時に、これら重元素は90を超える電子を有する多電子系であり、その結果アクチノイド系列では、5f 軌道が占有される。比較的空間的に広がった波動関数を持ち、かつ原子軌道の局在的性格を併せ持つ5f電子は、周囲の物理的化学的環境に応じてその振る舞いを変化させる。コロキウムでは、アクチノイド元素およびその化合物が示す特異な現象を概観するとともに、最新の研究トピックスを紹介する。
日時:6月18日(木) 13:00〜14:30 @物質生産棟751
講師:和田 浩史 氏 (立命館大学理工学部)
題目:「かたち・動き・成長の生物物理学」

アクチノイド元素は、原子力科学技術の中で中心的な役割を担っている。ここでは、ウランやプルトニウムといった原子番号90を超える重い原子核の不安定性に起因する核分裂エネルギーが利用されている。同時に、これら重元素は90を超える電子を有する多電子系であり、その結果アクチノイド系列では、5f 軌道が占有される。比較的空間的に広がった波動関数を持ち、かつ原子軌道の局在的性格を併せ持つ5f電子は、周囲の物理的化学的環境に応じてその振る舞いを変化させる。コロキウムでは、アクチノイド元素およびその化合物が示す特異な現象を概観するとともに、最新の研究トピックスを紹介する。

2014年度

日時:2月23日(月) 14:40〜16:10 @物質生産棟751
講師:多田 靖啓 氏(東京大学 物性研究所)
題目:重い電子系強磁性超伝導体UCoGe

強磁性と超伝導はともに物性物理学の中心的問題であるが、これら2つの状態は共存することは難しいと考えられてきた。実際、高温超伝導体の発見以来、反強磁性相と隣接・共存する超伝導は盛んに研究されてきたのに対し、強磁性とミクロに関連した超伝導は長らく見つからないでいた。しかし、2000年に初めてミクロに強磁性と超伝導が共存する物質UGe2が見つかり、その後UIr、URhGeやUCoGeにおいても強磁性超伝導が報告され、これらの発見に刺激されて実験・理論の両面から様々な研究が行われるようになった。中でもUCoGeは低いキュリー温度(TC=2.3K)と小さい磁化(0.05μB)を持つ遍歴的な強磁性体であり、強磁性が超伝導(TSC=0.6K)とどのように関係するのか、大きな興味が持たれている。
 本講演では、強磁性超伝導体の基礎的な話から始め、我々のUCoGeについての研究を紹介したい[1,2]。特に、磁場中における強磁性スピン揺らぎの性質とその超伝導への関係性を中心に議論する予定である。

[1] T. Hattori et al., PRL 108, 066403 (2012).
[2] Y. Tada et al., J. Phys. :Conf.Ser 409, 012029 (2013).
日時:2月3日(木) 16:25〜17:55 @物質生産棟751
講師:塩崎 謙 氏(京都大学大学院 理学研究科)
題目:結晶対称性によって守られたトポロジカル相について

本講演では先ずトポロジカル相に関連する次の3つの項目について紹介したい:

(a)トポロジカル絶縁体・超伝導体
(b)欠陥に局在するギャップレス状態
(c)ワイル、及びディラック半金属・超伝導体

上記の3つの項目は「欠陥ギャップレス状態は絶縁体の端状態とみなすことができる」、「バルクのトポロジカル相と境界ギャップレス・トポロジカル相とは1対1に対応する(バルク-境界対応)」という経験則により互いに密接に関係している。トポロジカル絶縁体・超伝導体の分類表の導出について簡単に紹介し、3つの同等性について確認する。さらに進んだトピックとして、結晶対称性によって守られたトポロジカル相の分類問題について議論したい。現在、簡単な点群対称性に対してのみ分類が行われているに過ぎず、分類が未解明な対称性クラスが多々存在する。位数2の磁気点群(Z2グローバル、鏡映、2回回転、空間反転)に対しては系統的な分類が可能であり、このことについて解説する。

[1] Ken Shiozaki and Masatoshi Sato, Phys. Rev. B 90, 165114 (2014).
日時:1月15日(木) 14:40〜16:10 @物質生産棟751
講師:森本 高裕 氏 (理化学研究所)
題目:トポロジカル絶縁体・超伝導体の分類理論とその局在問題への応用

トポロジカル絶縁体とは、バルク波動関数の幾何学的な性質のために、表面にギャップレスの伝導状態があらわれるバンド絶縁体の総称です。例としては、量子ホール系が古くから知られていますが、近年のZ2トポロジカル絶縁体の発見により大きな興味を集めています。またフルギャップの超伝導体も、同様に幾何学的理由で表面にギャップレス状態をともなう場合にトポロジカル超伝導体と呼ばれ、盛んに研究がなされています。系のもつ対称性のもとでどのような種類のトポロジカル絶縁体・超伝導体がありうるか興味が持たれますが、トポロジカル絶縁体・超伝導体の分類理論から各次元で5種類ずつ可能であることが知られています。
 本講演では、トポロジカル絶縁体・超伝導体の例とその分類理論について解説します。その後、結晶の対称性まで考慮したトポロジカル結晶絶縁体の分類理論[1]や、不純物系における局在問題への分類理論の応用[2]について我々の研究を紹介します。

[1] T. Morimoto and A. Furusaki, PRB 88, 125129 (2013).
[2] T. Morimoto and A. Furusaki, PRB 89, 035117 (2014).
日時:12月26日(金) 16:00〜18:00 @物質生産棟751
講師:田仲 由喜夫 教授 (名古屋大学大学院工学研究科)
題目:アンドレーエフ束縛状態とトポロジカル超伝導

不均一な超伝導体においては、電子がホールと干渉しあうことで、アンドレーエフ束縛状態(ABS)がギャップ内に形成される。これは、50年前から知られた概念であった。20年ほど前に、銅酸化物超伝導体表面でABSがフェルミ面上に形成され、トンネル効果に零電圧コンダクタンスピークを与えることが明らかになった。その結果、異方的超伝体のトンネル分光理論は進展し、ABSは異方的超伝体の対称性を決定する上で重要な役割を果たすことになった。今日、トポロジカル量子物理学の進展により、ABSはエッジ状態として、バルクのハミルトニアンのトポロジカル不変量の観点から注目され、さらに生成と消滅の区別できない特殊なABSはマヨラナ型準粒子として認識されるにいたっている。トポロジカル起源のABS、あるいはマヨラナ型準粒子をもつ超伝導接合系を、スピン軌道相互作用の強い系で人工的に設計することも最近の傾向となりつつある。この講演では、ABSの物理の発展について概観し、最近の進展をトポロジカル量子現象の観点から紹介したい。

[1] Y. Tanaka et al., J. Phys. Soc. Jpn. 81 (2012) 011013.
[2] S. Kashiwaya and Y. Tanaka, Rep. Prog. Phys. 63 (2000) 1641.
日時:11月20日(木) 16:30〜18:00 @物質生産棟751
講師:佐々 真一 教授 (京都大学大学院理学研究科)
題目:可逆な力学世界における不可逆性の創発

ビルは倒壊することがあるけれど、倒壊したビルが元に戻ることはない。そもそも、僕たちはいつか死ぬけれど、死んだら戻ることはない。時間変化する自然現象を動画として記録したとき、再生と逆再生では印象が異なることが多い。これは子供の頃から馴染んでいる当たり前のことである。しかしながら、物理の基礎法則を勉強した後で、それらを考えると、非常に不思議に思えてくる。その典型的な問いが、「可逆な力学からどのように不可逆な現象が生じるのか?」である。「ある軌道が運動方程式の解ならば、それを逆回ししたのも解である。」という力学の基礎的事実は目前の現象とどのように折り合いがつけられるのだろうか。19世紀から知られているこの問題について、21世紀の知見も踏まえて議論したい。
日時:11月12日(水) 13:00〜14:00 @物質生産棟751
講師:速水 賢 氏 (東大工)
題目:スピン軌道結合系における電子相関効果
   -電荷・スピン・軌道秩序による空間反転対称性の破れと特異な応答-

空間反転対称性のない系におけるスピン軌道相互作用は、スピンホール効果や電気磁気効果といった様々な興味深い現象を引き起こすことから近年大きな注目を集めている。このような系では、奇パリティをもった結晶場とスピン軌道相互作用の絡み合いから発現する反対称スピン軌道相互作用が重要な役割を果たしている。
 本研究では、原子位置で局所的に空間反転対称性が破れた格子系における電子相関の効果に着目する[1,2]。こうした系では、反対称スピン軌道相互作用は格子点ごとに交替的な値をとっており、系全体としては「隠れた」形として存在している。このとき、電子相関によって空間反転対称性の破れを伴う電荷・スピン・軌道といった秩序状態が形成されると、「隠れた」反対称スピン軌道相互作用が表に顔を出し、特異な電子状態や輸送特性をもたらすことが期待される。講演では、このような電子相関による自発的な対称性の破れがもたらす興味深いスピン軌道物性を、ミニマムモデルであるハニカム格子上の二軌道ハバード模型を用いて詳細に調べた結果を報告する。

[1] S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, PRB 90, 081115(R) (2014).
[2] S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, preprint (arXiv:1409.2142).
日時:11月7日(金) 10:45~〜1:45 @総合教育研究棟B255
講師:山本 秀樹 副所長 (NTT 物性科学基礎研究所)
題目:最先端MBE技術が生み出す物性研究グレードの銅酸化物超伝導体薄膜

高温超伝導体発見からの約25 年にわたる研究によって、銅酸化物のような複雑な物質の成膜技術は大きく進歩し、テープ線材の実用化研究に、共蒸着(MBE)法、PLD 法などの高度な薄膜成長技術が用いられるまでになっています。一方で、物性研究に役立つレベルの高品質な薄膜を作製するのは非常に大変です。物質本来の特性を示す高品質な薄膜が、他の物質系の場合と同様に、「結晶性」の良い薄膜であることは当然ですが、銅酸化物超伝導体の場合には、『結晶構造を保ったまま酸素組成が大きく変化し、物性も大きく変化する』という特徴のため、「結晶性」に2つの因子が存在します。

 (I)格子配列の良好性(≒通常の意味での結晶性)‐主にカチオンの組成、配列で支配される。
 (II)酸素副格子の完全性‐酸素の組成、配列で支配される。

 良好な結晶性を実現するために、適切な基板の選択や、温度をはじめとする成長条件の最適化を要することは勿論ですが、(I)の観点からは特に金属元素組成の制御法の確立が本質的です。金属元素を別々のソースから供給するMBE 法ではこの組成制御技術の確立と発展が特に重要でしたし、一般に化合物ターゲットの組成が薄膜にほぼ転写されるPLD 法でも精密組成制御の必要性が指摘されています。一方、(II)の観点からは、成膜時の酸化条件に加え、成膜後薄膜を冷やす際の酸化雰囲気にも細心の注意を払う必要があります。また、酸素副格子の完全性の向上に、精密なアニールが必要な場合もあります。一般に、「物性研究用の良質試料=大型単結晶」であり、エピタキシャル薄膜は、応用あるいは接合・超格子などで発現する物性の研究に有用と考えられてきました。しかしながら、単結晶が薄膜でのみ得られる物質もありますし、また上記(II)の因子によって、物質本来の物性の研究自体にも薄膜試料の方が適する場合もあります。
 本セミナーでは、上記のような高品質薄膜の作製方法と物性について紹介するとともに、我々の薄膜試料を用いた最近の研究結果が、発見から25 年を経た銅酸化物高温超伝導の電子相図に本質的な見直しを迫るものであることを紹介し、議論したいと思います。
日時:8月25日(月) 15:00 - 16:30 @物質生産棟751
講師:辻 直人 助教(東京大学理学部)
題目:超伝導体におけるヒッグスモードと擬スピン共鳴

超伝導体には、超伝導秩序パラメーターの振幅がコヒーレントに振動する集団励起モードが存在する。素粒子物理学におけるヒッグス粒子との類似性からヒッグスモードと呼ばれる。ヒッグスモードは電荷、分極、磁化などを伴わないため、電磁場と(線形では)結合せず観測が困難とされてきた。
 本講演では、周波数Ωのレーザー光を超伝導体に照射したときに秩序パラメーターが2Ωの周波数で振動すること、また2Ω=2Δ(超伝導ギャップ)のときに2Ω振動がヒッグスモードと共鳴して増幅されることを明らかにする[1]。これはアンダーソンの擬スピン模型に基づいて、擬スピンの歳差運動のスピン共鳴として理解される。これに伴い、巨大な三次高調波の発生が起こる。
 ヒッグスモードに共鳴した擬スピンの歳差運動は、最近テラヘルツ光を用いた実験により観測された[2]。その実験についても触れたい。
[1] N. Tsuji and H. Aoki, arXiv:1404.2711.
[2] R. Matsunaga, N. Tsuji, et al., Science, published online (10.1126/science.1254697).
日時:8月5日(火) 16:25 – 17:55 @物質生産棟751
講師:網塚浩 教授(北海道大学大学院理学研究院)
題目:URu2Si2の「隠れた秩序」はどこまで明らかになったのか

URu2Si2(体心正方晶、ThCr2Si2型構造)は、1984年に発見された重い電子系超伝導体である。この物質が今もなお注目を集める理由は、超伝導転移(約1.4 K)より高温の17.5 Kで生じるもう一つの2次相転移の起源が、多くの研究努力にも拘わらず四半世紀を経てもなお未解明なことによる。この相転移は現在「隠れた秩序」と呼ばれ、20を越える様々な理論提案の中で、実験で如何に秩序変数すなわち自発的に破れる対称性を特定するかが大きな課題となっている。本講演では、この問題を解くことの重要性を解説するとともに、有力候補とされる高次多極子秩序の可能性を検証する我々の実験的取り組みを紹介する。さらに、近年、鉄系超伝導体と同様のネマティック秩序が起きている可能性が相次いで報告されており、この点についても現状を整理して議論したい。
日時:6月12日(木) 16:25 – 17:55 @物質生産棟751
講師:播磨尚朝 教授(神戸大学理学研究科)
題目:結晶の電子状態に現れる相対論効果とパリティ対称性の破れ

相対論効果を私たちの日常生活において考える機会はほとんどない。相対論効果を考慮した場合に、一電子のシュレーディンガー方程式には、スカラー項(質量補正やダーウイン項)とスピン軌道相互作用という2種類の補正項が現れる[1]。スピン空間と実空間を結びつける後者の相互作用は、磁気異方性やマルチフェロイクスの起源として議論されているが、前者のことはあまり話題に上らない。実は、いずれの相対論効果も異なった形で日常的に現れている。
 典型的な電子の速度をuとして、(u/c)2の割合で相対論効果は現れる。通常の電子状態のエネルギーでは(u/c)2は極めて小さい。ではなぜ、相対論効果は現れるのだろう。それについては、原子やイオンの正電荷が多くの内殼電子によって遮蔽されていることに注意する必要がある。例えば、金の1s電子に対する(u/c)2は約0.3であり、金の内殼電子には大きな相対論効果が生じている。この相対論効果によって、金の5d電子の励起が可視光域で可能になり、私たちは金色を目にすることができる。実は、スピン軌道相互作用の大きさも原子核近傍の強いポテンシャルでほぼ決まってしまい、原子間のポテンシャルの変化には極めて鈍感である[2]。
 さて、通常の物理現象は空間反転を行っても変化しない。このことをパリティ対称性がある、または、パリティが保存されている、と言う。ところが、結晶には空間反転対称性がないものが数多くある。それらは、原子位置で空間反転対称性がないものと巨視的な結晶全体として空間反転対称性のないものに大別される[3]。前者の典型例をダイアモンド構造とすれば、後者の例は閃亜鉛鉱型(ジンクブレンド型)構造となる。この他にも表面状態を考えれば、空間反転対称性が欠如していると考えることができる。結晶でのパリティ対称性の破れは一般に電子状態の縮退を解く。この状態の分裂の背景にはスピン軌道相互作用が重要な役割を果たしているが、分裂の大きさはスピン軌道相互作用の大きさでは決まらない[2,3]。バンドのパリティ対称性の破れによるエネルギー利得によって相転移するCd2Re2O7の電子状態を例に、パリティ対称性の破れと電子状態の関係について解説する。
 講演内容の一部については、新潟大学の柳瀬陽一氏との共同研究である。

[1] D D Koelling and B N Harmon, J. Phys. C: Solid State Phys. 10 3107 (1977).
[2] 柳瀬陽一・播磨尚朝、「スピン軌道相互作用と結晶中の電子状態」(その1-その3)、固体物理 46-5, 229 (2011); 46-6, 283 (2011); 47-3,101 (2012).
[3] 播磨尚朝、「群と結晶」、数理物理(特集:群と物理学)601 34 (2013).
日時:5月15日(木) 16:25 – 17:55 @物質生産棟751
講師:光田 暁弘 准教授 (九州大学 理学研究科)
題目:Eu化合物における価数転移および価数秩序転移の研究

 最近、希土類金属において価数の揺らぎに起因する新しい量子臨界現象(例えば、超伝導や非フェルミ液体的振舞)が発見され、注目されている。希土類金属における価数は4f電子数と対応しているが、4f電子は希土類金属の磁性も担っており、この不安定性は磁性も絡めて多種多様な興味深い物性を引き起こす可能性を秘めている。我々は、価数不安定性に起因する現象として、Eu化合物が示す価数が変化する現象(価数転移)や価数揺動が抑えられて異なる価数状態が秩序配列する現象(価数秩序転移)に注目し、これらの現象を示す物質群を探索し、更に、高圧、強磁場等の極限環境下でその性質を調べることによって、メカニズムの解明に迫る研究を行なっている。
 本講演では、我々が最近EuRh2Si2において発見した圧力誘起価数転移を紹介し、この価数転移が比較的弱い磁場によっても誘起されることを示す。更にEuPtPにおいては温度により2つの価数転移(T1=240K, T2=200K)が起こる希有な例であることが知られていたが、我々は、T1で価数秩序が生じ、T2でその周期性が変化することを見いだした。価数転移と価数秩序転移が同時に起こる珍しい系であると言える。また、高圧を加えることにより新たな価数秩序相出現の可能性を示唆する結果についても紹介する予定である。
◎超音波・スピン系物性ミニワークショップ
日時:5月9日(金) @ 環境エネルギー棟202

 時間:9:30 -
発表者:黒江 晴彦 (上智大学 准教授)

 時間:11:00 -
発表者:平田 芳規 (上智大学 修士課程)

 時間:13:30 -
発表者:根本 祐一 (新潟大学 准教授)

 時間:14:30 -
発表者:椎名 亮輔 (新潟大学 教授)

 時間:15:15 -
発表者:奥西 巧一 (新潟大学 准教授)

 時間:16:00 -
発表者:赤津 光洋 (新潟大学 助教)

 時間:17:15 -
発表者:栗原 綾佑 (新潟大学 博士課程)
日時:5月8日(木) 16:30 @物質生産棟751
講師:黒江 晴彦 准教授 (上智大学 理工学部)
題目:多重極限環境下のRaman 散乱で観測したスピン・ダイマー系のAnderson-Higgsモード

 Anderson-Higgs モードとは,複素数で表される秩序パラメータの強度が揺らぐモードである[1]。このモードは種々の系での量子相転移に関連し,その一般的な性質を俯瞰的に理 解する事が求められている。Anderson-Higgsモードは,今回紹介するスピン・ダイマー系の他に,光格子中のボーズ気体,超流動3He, s波超伝導体,電荷密度波系などでも観測さ れている。
 今回の発表では,相互作用したスピン・ダイマー系 ACuCl3 (A = K, Tl) に着目する。この物質の結晶構造は,二個の S = 1/2 Cu2+ イオンが反強磁性的に結合したCu2Cl6 スピン・ダイマーが,閉殻の A+ イオンによって結びついてると解釈できる[2]。スピン・ダイマーが結晶内で互いに相互作用することで,複雑な磁気励起分散関係を持つが[3],これはボンド演算子理論を用いた計算によって再現できる[4]。エネルギー・ギャップはスピン・ダイマー内の反強磁性相互作用から期待される大きさより遙かに小さくなり,磁場や圧力印加等の外場によって容易に量子相転移を起こす事が知られている。磁場誘起量子相転移は,マグノンのBose-Einstein凝縮と解釈される[5]。今回の発表は,六月に京都で開催される国際会議「Higgs Modes in Condensed Matter and Quantum Gases」の日本語版previewとして,低温 (3 K)・強磁場(12 T)でのRaman散乱測定により観測されたAnderson-Higgsモードを紹介する[6]。実験データを紹介した後に,magnon励起を分光学的手法であるRaman散乱で測定できる仕組みを,ボンド演算子理論を用いて説明する。低温 (3 K)・高圧下 (10 GPa)での測定結果に関しては,時間があれば紹介する。
[1] M. Endres et al., Nature 487 (2012) 454.
[2] K. Takatsu et al., J. Phys. Soc. Jpn. 66 (1997) 1611,
http://www.lee.phys.titech.ac.jp/subpage/ladder_dimer.htmlに結晶構造の模型があります。
[3] N. Cavadini et al., J. Phys.: Condens. Matter 12 (2000) 5463.
[4] M. Matsumoto et al., Phys. Rev. B 69 (2004) 054423.
[5] T. Nikuni et al., Phys. Rev. Lett. 84 (2000) 5868.
[6] H. Kuroe et al., Phys. Rev. B 77 (2008) 134420.
2013年度

◎物質量子科学センター・ミニワークショップ
日時:3月20日(木) @ 理学部B棟303

強相関電子系の研究では,極低温・強磁場・高圧力の複合極限環境を駆使して電子状態を変貌させ,重い電子状態や特異な超伝導状態など興味深い物性を引き出す研究が行われています。物質量子科学研究センターの物性実験グループは,私たちが得意とする物質創成や高圧下の精密物性実験を行うとともに,フランスやドイツの強磁場実験グループと共同研究を行っています。今回は,フランス国立科学研究センター(CNRS)の強磁場実験施設から2人の研究者をお招きし,セミナーを開催しました。

10:30 - 11:15
講師:Dr. Ilya Sheikin (LNCMI-Grenoble, CNRS, France)
題目:Specific heat and de Haas-van Alphen effect study of CePt2In7 high quality single crystals

11:15 - 11:45
講師:Prof. Rikio Settai (Niigata University)
題目:Pressure-induced Superconductivity in CePt2In7

13:30 - 14:15
講師:Dr. William Knafo (LNCMI-Toulouse, CNRS, France)
題目:High-Magnetic Field Study of the Fermi surface in the hidden-order state of URu2Si2

14:15 - 15:45
講師:Dr. Yusuke Hirose (Niigata University)
題目:Novel electronic states induced by pressure and magnetic field in super heavy fermion compound YbCo2Zn20

14:45 - 15:15
講師:Prof. Yuichi Nemoto (Niigata University)
題目:Ultrasonic study of hydrostatic pressure effects in YbCo2Zn20
日時:3月17日(月) 14:40 - 16:10
講師:東 陽一 氏 (大阪府立大学 工学研究科)
題目:異方的クーパー対の位相敏感プローブとしての磁場角度分解磁束フロー抵抗

 超伝導対関数の対称性は、クーパー対の形成機構と密接に関係しており、それを同定することは重要である。従来、対関数の「振幅」の異方性を検出する実験手段は多く存在する。しかし、「位相(符号)」まで検出できる実験手段は非常に限られている。本研究では、クーパー対の軌道内部自由度の対称性を位相の情報まで含めて検出可能な新奇な現象を発見した[1]。超伝導体中の準粒子散乱には、対関数の位相の情報が反映される。
 本研究では特に渦糸芯での不純物による準粒子散乱率(磁束フロー抵抗に関係する物理量)に着目し、超伝導体に印加する磁場の方向を回転させた際の物理量の変動パターンから異方的クーパー対に関する情報を得ることを目指した。その結果、準粒子散乱率の印加磁場方向に対する依存性に、クーパー対波動関数の「位相」の情報が反映されるという現象を発見した。準粒子散乱率は、マイクロ波を用いた表面インピーダンス測定から見積もられる。この理論結果に基づき、磁場角度分解した準粒子散乱率の測定をクーパー対のペアリング対称性を検出する新しい位相敏感な実験プローブとして提案する。
[1] Y. Higashi et al., Phys. Rev. B 88, 224511 (2013).
日時:3月12日(水) 14:40 - 16:10
講師:荒川 直也 氏 (東京大学 理学研究科)
題目:Ru酸化物における軌道協力的スピンゆらぎと軌道依存電荷輸送

 磁気秩序などの量子臨界点(QCP)近傍では、遍歴する電子が強い電子間相互作用を感じることに由来する多体効果のため、輸送係数が1電子描像から大きく外れた温度依存性を示す。近年の精力的な実験により、軌道自由度の無視できる系(銅酸化物など)だけでなく、軌道自由度が本質的な系でも輸送係数が異常な温度依存性を示すことが明らかにされ、多軌道系のQCP近傍の輸送現象の理論的研究の必要性が高まってきた。しかし、1軌道系の先行研究で重要性が明らかにされた、(a)電子の自己エネルギー補正と(b)電子・正孔間の多重散乱を記述する電子・正孔4点バーテクス関数の両者を考慮した多軌道系の理論は存在しない。そこで、多軌道系のQCP近傍の輸送現象における(a)と(b)の役割の解明および多軌道系特有の新奇な輸送特性の創出を目指し、反強磁性QCP近傍の場合のRu酸化物の面内電気抵抗と弱磁場極限の通常ホール係数を調べた。ここで、手法は、ゆらぎ交換近似と真木-Thompson型の電流のバーテクス補正を考慮したものを使った。
 本講演では、Ru酸化物における空間相関の重要性について簡単に説明してから、面内電気抵抗と通常ホール係数に対する(a)と(b)の影響と軌道自由度の役割について紹介する。特に、(1)異なる次元性の軌道をもつ、フェルミ面が密集している系では、平均場近似では再現できない、軌道協力的スピンゆらぎ(SF)がQCP近傍で発達すること、(2)その軌道協力的SFが通常ホール係数に多軌道系特有の輸送特性をもたらすこと、(3)輸送特性と磁気ゆらぎに対する軌道の異なる役割の重要性についてお話しする。
日時:3月4日(火) 15:30 – 16:30
講師:古賀 幹人 (静岡大学 教育学部)
題目:三角形三重量子ドット -ナノ近藤系の新展開-

 メゾスコッピク系やナノ物質系の分野では、量子ドットをはじめとする人工原子系を中心に微細構造形成技術がめざましい進歩を遂げており、近藤効果研究の新たな舞台となっている。本講演では、三角形三重量子ドット系に焦点を当て、スピン電荷制御に関する最近の理論的研究を紹介する。
日時:3月4日(火) 13:00 – 14:00
講師:松本 正茂 (静岡大学 理学部)
題目:偶奇周波数超伝導の共存について

 無磁場における均一な従来型超伝導体では、電子ペアの周波数依存性には偶数次のみが現れる。しかし、最近、奇数次のペア振幅を持つ超伝導状態が存在しうることが指摘され、理論実験ともに活発に研究されている。本講演では、磁場下や界面においては、通常の超伝導体といえども奇成分が誘発され、新規な偶奇共存状態となることを微視的な解析により示す。特に界面の場合、奇成分が束縛状態によって形成されることを明らかにする。
日時:1 月16 日(木) 14:40 - 16:10
講師:金子 耕士 研究員 (日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門)
題目:中性子散乱で探るカゴ状物質の物性

 中性子は、磁気モーメントを有するほか、熱振動に高い分解能をもつこと、任意の波数-エネルギー空間を走査出来るなどの特徴をもつ。これらの特性は、カゴ状構造を持つ物質に特徴的なラットリングや、伝導電子との強い混成状態、縮退した結晶場準位及びそれに起因した多彩な秩序状態などの研究において、中性子が有効な研究手段であることを意味している。本セミナーでは、国内の中性子散乱施設の簡単な紹介と合わせ、立方晶1-2-20 系化合物の一つで、極めて重い電子状態を基底にもつYbCo2Zn20 における結果を中心に、最近の進展を報告する。
日時:9月3日(火) 14:40 – 16:10
講師:辺土 正人 准教授 (琉球大学 理学部)
題目:強相関電子系物質の高圧下熱物性

 Eu化合物ではEuの価数不安定性が存在し、磁性を持つEu2+(4f7 : S = 7/2, L = 0 , J = 7/2) が、非磁性のEu3+(4f6 : S = L = 3 , J = 0)へ温度や圧力、磁場によって、一次転移的に価数転移するものが多々存在します。その転移は、価数変化による電子状態の変化だけでなく、大きな磁気状態の変化も伴っています。我々は、圧力下の熱電能(ゼーベック係数)測定やドハース・ファンアルフェン(dHvA)効果測定により、Eu化合物の電子状態について研究を進めており、本講演では EuCo2P2、EuGa4、EuNi2P2について、講演する。
日時:8月12日(月) 14:30 – 15:30
講師:Prof. Jochen Wosnitza (Hochfeld-Magnetlabor Dresden (HLD))
題目:The Dresden High Magnetic Field Laboratory - Recent Research Results -

In this talk, a brief overview on the experimental infrastructure and the in-house research at the Dresden High Magnetic Field Laboratory (Hochfeld-Magnetlabor Dresden, HLD) will be given. High magnetic fields are one of the most powerful tools available to scientists for the study, modification, and control of the state of matter. The application of magnetic fields, therefore, has become a commonly used instrument in condensed-matter physics and the demand for the highest possible magnetic-field strengths increases continuously. At the HLD, that has opened its doors for external users in 2007, pulsed magnetic fields beyond 90 T have been reached. The laboratory recently has achieved a record field of 94.2 T having the ambitious goal of reaching 100 T on a 10 ms timescale. In the pulsed magnets, a variety of experimental methods are available allowing to measure e.g. electrical transport, magnetization, magnetostriction, ultrasound, ESR, and even NMR with very high resolution.
As a unique feature, a free-electron-laser facility next door allows high- brilliance radiation to be fed into the pulsed-field cells of the HLD, thus making possible high-field magneto-optical experiments in the range from 3 to 250 μm. In-house research of the HLD focuses on electronic properties of strongly correlated materials at high magnetic fields. This includes the investigation of novel magnetic materials, the determination of Fermi surfaces of novel superconductors and heavy-fermion systems by means of measurements of magnetic quantum oscillations as well as the recently found evidence for the existence of the Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov state in an organic superconductor.
日時:7月9日(火)14:30 - 16:00
講師:岸根 順一郎 教授 (放送大学)
題目:カイラルらせん磁性体の物理

 磁気秩序構造に様々な次元性を持つトポロジカル欠陥を作り込んで電流や外場によって制御しようという研究が活発に進行している。ランダウ理論によれば、秩序構造は結晶の幾何学的対称性によって括り込まれたものである。この意味で、秩序状態が織りなすトポロジカル構造も結晶の幾何構造の配下にある。我々はこのような視点に立ってこの5年ほど「カイラル磁性結晶で実現するカイラルらせん磁気構造」に興味を持って研究を進めてきた。この種の磁気構造に磁場を印加すると、カイラルソリトン格子と呼ばれるコヒーレントなスピン位相のストライプ秩序が安定化する。このストライプ構造は「周期的,非線形,非対称,トポロジカル」という性質をあわせ持ち,0.1テスラ程度という控えめな磁場でその空間周期を数十ナノメートルから結晶サイズまで連続的に制御することができる。
 本講演では、六方晶カイラル空間群に属する層状カルコゲナイドCr1/3NbS2におけるカイラルらせん磁気構造とカイラルソリトン格子構造の実空間観測実験および理論研究(特に伝導性との関連)の現状と展望について紹介する。余裕があれば、X線、中性子、ミュオン、超音波といった偏極プローブによるカイラリティ検出の試みにも触れる。
日時:7 月5 日(金) 14:30 - 16:00
講師:Prof. Karlo Penc (Institute for Solid State Physics and Optics, Hungary)
題目:Spin-wave excitations in the multiferroic compound Ba2CoGe2O7

We studied spin excitations in the magnetically ordered phase of the non-centrosymmetric Ba2CoGe2O7 in high magnetic fields up to 33 T. In the electron spin resonance and far infrared absorption spectra we found several spin excitations beyond the two conventional magnon modes expected for such a two-sublattice antiferromagnet. We show that a multiboson spin-wave theory describes these unconventional modes, including spin-stretching modes, characterized by an oscillating magnetic dipole and quadrupole moment. In particular, the lack of inversion symmetry allows each mode to become electric dipole active and interact with light. Finally, we discuss the signatures of higher energy excitations in inelastic neutron spectrum.
日時:6 月 13 日(木) 15:00 - 16:00
講師:松村 武 准教授 (広島大学 先端物質科学研究科)
題目:CexLa1-xB6 系における多極子の秩序とゆらぎ

 希土類化合物CeB6の物性研究は1970 年代における高濃度近藤効果の研究に端を発し,電気四極子や磁気八極子といった高次多極子の秩序現象の研究を経て,典型物質として40年近くに渡ってホットな話題を提供してきた。本講演ではその歴史を簡単に振り返り,特に最近発展した手法である 共鳴X線回折によって高次多極子の秩序がどのように観測されたか,次の2点について解説する。
(1) CeB6における電気四極子秩序と磁場誘起磁気八極子
(2) Ce0.7La0.3B6における磁気八極子秩序と磁場誘起電気四極子
現在,我々が興味を持っているのは(1)については分子場モデルで 全体像がおおむね理解可能なのに対して,(2)については困難な点である。(2)のTb型八極子秩序相で磁場誘起される四極子はΓ3型(O20, O22)のはずであるが,実験はΓ5 型 (Oyz, Ozx, Oxy) であることを示している。磁気相図の形や,わずかな磁性イオンドープで反強磁性秩序が現れる点など,ゆらぎの観点から系全体を見直してみることが重要ではないかと考えている。
日時:5月15日(水) 13:00 - 14:30
講師:星野 晋太郎 氏 (東京大学 総合文化研究科)
題目:重い電子磁性体におけるf電子の遍歴・局在性

 物性物理学において電子の遍歴・局在性は基本的かつ重要な問題である。両者の狭間では非従来型超伝導や量子臨界現象など興味深い振る舞いを示すため、これまで多くの研究が展開されてきた。本研究で注目する局在性の強いf電子を持つランタノイドやアクチノイド化合物は、電子の遍歴・ 局在二重性を示す典型的物質群である。元来局在していたf電子が伝導電子との相互作用によって遍歴性を獲得すると、f電子はフェルミ面に寄与するようになる。よって電子の遍歴・局在性の変化はフェルミ面に反映される。実際、 重い電子系物質Ce(Rh,Co)In5、CeRu2(Si,Ge)2、UGe2、Ce(Ru,Rh)2Al10などの系において、フェルミ面の劇的な変化が実験的に観測されている。我々はこれらの多彩な挙動をシンプルな描像から統一的に理解すること目指し、近藤・ハイゼンベルク格子を動的平均場理論によって解析した。その結果、磁気秩序相内においてf電子の遍歴・局在性が移り変わることを見出し、さらに上記物質で観測されている多様な相図を定性的に説明することに成功した。講演では遍歴・局在転移近傍特異な振る舞いについても議論する。

日時:4月24日(水) 14:40 - 16:10
講師:金 鋼 准教授 (新潟大学 理学部)
題目:ガラス転移の物理学: 分子が渋滞する世界

 ガラス転移とは、凝固点以下の過冷却状態で構成する分子がランダムな配置のまま運動が凍結してしまうことであり、金属、高分子、分子性液体、イオン液体、コロイドなど様々な物質群で共通して見られ現象である。これをガラスの定義とすると、窓ガラスに限らず、我々の身の回りにはガラス様物質が満ち溢れていることに気がつく。ペンキや泥、豆腐やゼリー、さらには砂山や車の流れも広義なガラスであり、まさにガラス転移は分子の渋滞現象とも言える普遍的な現象である。 物理学の観点からのガラスの特徴は、様々なガラス形成物質においてガラス転移点近傍になると、粘性率や緩和時間といった輸送係数がわずか数ケルビン程度の温度幅で10桁以上も増大し発散を示すことである。ところが、ガラスの分子配置はランダムな液体の瞬間的な配置と区別がつかないほどによく似た構造を維持したままであり、「なぜ分子の運動性が急激に緩慢になるのか?」という本質的なメカニズムは未解明のままである。
 講演では、通常の液体や固体とは異なるガラスの奇妙な性質について概観し、分子動力学シミュレーションとその解析について最近の研究を紹介したい。